30代男性 有痛性外脛骨手術
足の内くるぶしの斜め下前方あたりに張り出した場所があります。
この部分は後脛骨筋という筋肉の付着部であるため、強い力がかかります。
この部分に痛みがあり難治性の場合、過剰な骨である外脛骨がある場合があります。
外脛骨自体に害はなく、15%ほどの人にみられます。
しかし捻挫やスポーツで不安定性が生じ、痛みが出ることがあります。
小児の場合、成長とともに治癒することがほとんどですが、
成人の難治性疼痛に対しては手術が選択されることがあります。
手術は外脛骨の骨片摘出です。
今回紹介するのは、30代男性です。
難治性の疼痛に対し手術を希望されました。
赤で囲まれた部分が外脛骨です。
手術時間は付着する靭帯との関係で変わりますが、30~40分程度で終了します。
右足の手術後です。
赤で囲まれていた部分の外脛骨がなくなっています。
さらに舟状骨の張り出しも少し削っています。
有痛性外脛骨障害の方は、かなり多いのですが、
保存治療(湿布、物理療法、理学療法)で軽快することが多く、手術を受ける方は少数です。
手術は低侵襲な割りに除痛の確実性は高いので、なかなか治らない方にはお勧めです。
しかし靭帯付着部であるため、全力で走るようなスポーツ復帰には3~4カ月必要です。
HP「ひざの痛みと治療方法」に登録されました
「ひざの痛みと治療方法」というホームページに https://hiza-itami.jp/
骨切り術(HTO)の相談と手術を受けられる施設として登録されました。
宮崎県では2施設で、宮崎市内では当院のみとなっています。
登録には、高い技術と一定の手術実績が必要となり、
先日登録完了の連絡があり、大変光栄なことだと思っています。
骨切り術以外の情報も詳しく載っているので、膝の痛みで悩んでいる方には、
有意義なホームページです。
2019年手術実績
2019/1/1~12/31までの手術実績をまとめました。
全手術件数 423件
全身麻酔手術 321件
局所麻酔手術 102件
全身麻酔手術内容
人工関節置換術(膝・股) 109件
膝関節鏡手術 112件
高位脛骨骨切り術(O脚矯正) 18件
骨折手術 41件
その他 41件
局所麻酔手術内容
腱鞘切開 63件
手根管開放術 12件
軟部腫瘍摘出術 11件
その他 18件
両膝、両手同時手術、複数部位同時手術(足と手の骨折など)は2件で計算しています。
保険点数上は2件でも、同一術野の手術(手首の橈骨・尺骨骨折同時手術、腱鞘切開同側2本以上、膝関節鏡と高位脛骨骨切り術同時手術など)は1件で計算しています。例えば上の一覧では膝関節鏡手術は112件としていますが、高位脛骨骨切り術(18件)でも関節鏡での処置を同時に行うので、実際の関節鏡手術件数は112+18=130件となります。しかし、これを2件にわけるとわかりにくくなるのと、実態からかけ離れていくので、この場合高位脛骨骨切り術を(主)としてカウント、関節鏡は(従)としてノーカウントにしています。
手術部位では、膝(人工膝関節全置換・単顆置換・膝関節鏡・高位脛骨骨切り術・骨切り後の抜釘など)が
225件と最多でした。
前十字靭帯再建+高位脛骨骨切り同時手術
高位脛骨骨切り術(HTO)は、若年で活動性が高い変形性膝関節症に主に行われる手術です。
しかし、膝前十字靭帯(ACL)という前後・回旋制動の役割を果たす靭帯が機能していることが絶対条件となります。
ACLは、スポーツ選手(バレー、バスケットボール、サッカー等)がよく切ってしまう靭帯です。
ACL断裂を放置すると、将来ほぼ確実に変形性膝関節症になるので、
現在では、40~60歳でも再建が当たり前となっています。
しかし、10~20年前より以前は、スポーツをしない、主婦、中高年だからと
保存治療(手術をせずにリハビリや装具)も間違いではないとされていました。
今回紹介するのは50代の女性で、中学生のころにACL断裂が生じています。
その後約40年経過して、高度な変形性膝関節症となりました。
右膝内側の軟骨が消失して、関節面が不正となり、さらにO脚に変形しています。
通常であれば人工関節の適応ですが、活動性が高く、HTOを希望されました。
しかしACLが断裂しているため、HTOと同時にACL再建も行う必要があります。
関節鏡画像です。
右膝内側の軟骨が消失しています(上)。
対してHTOで体重がシフトされる外側の軟骨は全く正常です(中)。
ACLは完全に消失しています(下)。
(下)画面の左上から右下にかけてあるべきACLは遺残組織のみとなっています。
まずはACLを再建します。
V0020動画です。
この後にHTOを行います。
HTOのスクリューと再建靭帯の走行が重ならないように、
微調整が必要となり難易度の高い手術となります。
並べてみると、膝の形が良くなっていることがわかります。
両側同時 高位脛骨骨切り術2例
2019年11月は両側同時の高位脛骨骨切り術が2例ありました。
高位脛骨骨切り術とは、変形性膝関節症のうち内側の変形が強い(=O脚)の患者さんで、活動性が高い方に行う手術です。
変形が少ない膝の外側に、荷重部を移動(X脚にシフト)させることにより、痛みをとることができます。
変形性膝関節症は、両側同じように変形していく場合が多いので、両側同時手術の適応は意外と多いです。
一例目は40代女性です。
高度なO脚です。内側の関節裂隙(軟骨があるべきすき間)が消失しています。
60歳以上であれば、人工膝関節置換術を選んでもよい症例です。
関節鏡で膝の中を確認すると、膝の内側の軟骨が消失しているのに対し、
膝の外側の軟骨は十分に残っていました。
両足同時に矯正しています。術後は4週で退院し、経過は良好です。
次は50代女性です。
同じように内側の軟骨がすっかり消失しています。
年齢的には人工関節でも対応可能ですが、まだまだお仕事を現役で
頑張るために両側同時の骨切り術を希望されました。
術後の経過は良好で、おなじく4週で退院となりました。
両側同時手術の良い点は、片側ずつした場合に比べて、一回の全身麻酔ですむこと、入院期間が半分になることです。
欠点としては、術後1~2週は、片側ずつした方にくらべて移動が大変です。
終わってみれば、皆さん両側同時にやって良かったと言われます。
11月はこの2例以外に、両側同時TKA(人工膝関節全置換術)、両側同時UKA(人工膝関節単顆置換術)
が一例ずつありましたが、3~4週で退院しています。
40代女性 股関節高位脱臼
高位脱臼とは、乳児~幼児期から股関節が脱臼した状態です。
人間は適応力がありますので、なんとか歩けるのですが、変形が進むと歩行困難となります。
先日40代の女性の高位脱臼を伴う右変形性股関節症に対し、人工関節置換術を行いました。
右股関節の位置が左と違います。
40年以上この状態で歩いていたわけで、股関節の上の骨盤に新しい関節ができています。
この場合、本来の股関節の位置に戻すための手術操作、骨移植、靭帯調整が必要になり
難易度の高い手術になります。
術後の画像です。
足の長さがそろい、骨盤の傾きも改善しています。
痛みが取れ、驚くほど歩く姿勢がよくなりました。
外反母趾手術
外反母趾は、中高年以降の女性でかなりの有病率です。
しかし、膝や股関節ほど直接歩行に影響しないため、手術するケースは少ないです。
ほとんどの方が、薬局やインターネットで買えるような簡易装具で治療し、実際それで問題はありません。
母趾の付け根が腫れ上がって痛みが続いたり、足の裏に大きなタコ(ベンチといいます)ができて
歩行時に疼痛が生じ、保存治療で改善がないケースが手術になります。
見た目もよくなりますが、見た目を治すことが目的ではなく、足のアーチを調整し痛みをとる手術です。
40代男性の左外反母趾手術の症例を紹介します。
X線で左足の親指が外側を向いています。手術は全身麻酔で1時間程度の手術となります。
術後のX線写真です。中足骨という足の甲のあたりの骨を矯正します。
外反母趾手術は、以前はスクリューやピンを1~2本で固定する手術が主流で、初期の固定力が弱いことが問題でした。
当院では、強固な固定が得られるロッキングプレートを使って矯正位を保持します。
手術翌日より踵(かかと)を使って歩行可能です。入院期間の目安は3日~10日です。
術後数年経過して母指が外反してくることがありますが、骨格を矯正しているので、
見た目が少し戻る程度で問題はありません。
人工股関節勉強会
9/28(土)は、福岡での人工股関節の勉強会に参加しました。
九州を中心に、人工関節・関節外科を専門とする整形外科医250名が参加しました。
大学病院等の第一線で活躍する講師らが、それぞれテーマごとに講演し、
パネルディスカッションを行います。
手術適応、アライメント(脊椎を含むバランス)調整、
アプローチ(各種手術進入法)、インプラント(人工関節の機種)選択
合併症対策等、16名の講師により、みっちり6時間ありました。
昔の常識が、いつの間にか非常識になっていく医療の世界では、
勉強はとても大事です。
オーダーメイド人工膝関節(PSI)
当院では、全ての症例ではありませんが、
人工膝関節全置換術に対し、患者ごとにオーダーメイドでの骨切りガイド
(Patient Specific Instrument=PSI)を作成します。
かなり新しい技術で、使用しているところはまだ多くありません。
人工膝関節置換術における、大腿骨と脛骨の骨切角度(屈曲伸展・内外反・左右回旋)は、
股関節と足関節の位置を含めて計画をたてます。
術前にX線で股関節・足関節を含めて撮影し、計測して計画しますが、2次元画像のためどうしても限界があります。
PSIは、全下肢の3DCT画像から解剖学的に理想とする骨切りガイドを作成します。
3DCT画像を元に大まかな計画が送られてきて、術者が微調整し最終決定。
アメリカの人工関節メーカーより輸送されてきます。
長所短所をまとめると。
長所
●驚愕の精度で人工膝関節が設置できる →わずかな設置角のズレによる膝動作時の違和感が少なくなる
●手術侵襲が小さくなる →出血量減少。腫れが減り、回復が早い
(手術では10~12cmの皮膚切開しか視野がない。解剖軸を確認するために
様々なガイドを骨に穴を空けて設置する。そのため本来必要のない侵襲が加わる。それが一切不要となる)
短所
●手術が決して簡単にならないし、手術時間が短くもならない(正確に設置できるかは、術者次第)
●術前の手間がかかる
(X線のみの手術計画は10分でできるが、海外との数百メガの画像のやりとり、微調整、承認手続きで1時間近くかかる)
元々この骨切りガイドがなくても、良好な設置ができていたわけで、基本的になくてもできます。
しかし、3次元の膝に対して2次元のX線で計画しても、数度・数mmの誤差は生じます。
PSIは、技術と経験だけでは補えない部分をサポートしてくれます。
ただ軟骨や靭帯が邪魔をして正確な設置は意外に難しく、結局は術者次第です。
PSIは人工関節が簡単になるわけではなく、
熟練者が使ったら「鬼に金棒」となると理解してもらえば良いと思います。
人工膝関節全置換術(TKA)の両膝同時手術
8月には両膝同時の人工膝関節全置換術が2件ありました。
変形性膝関節症は、両膝同時に悪化することが多いです。
特にO脚が強い方は、片方だけ手術で真っ直ぐにしても、
手術をしていないほうの足が痛く、リハビリの足をひっぱります。
両膝の人工膝手術は、多くの方が片方ずつ行います。
その場合、片方が終わって約4週後に反対側を行います。
入院期間は約7~8週となります。
両膝同時に行った場合は、術後3~4週で退院可能です。
しかし、内科的な問題が少ない、体力が十分ある70代前半までが適応です。
また、リハビリは両膝同時なので、その分大変です。
患者さんには、「片方ずつの方の、2倍努力してください」と説明しています。
先日行った両膝同時手術(70代女性)の術前です。
高度なO脚であり、片方だけ治しても歩行は改善しません。
両膝同時に手術を行い、翌日から歩行練習開始です。
両膝同時を希望する方は、仕事復帰や家族のために頑張る方が多く、
最初は苦労しますが、3~4週で問題なく退院されます。