社内研修会で講演
シオノギ製薬という医薬品メーカーから、社内研修会の講演を依頼されました。
このような講演は、どちらかといえば大学病院の教授や講師、総合病院の部長等が依頼されることが
多いのですが、せっかくの機会ですので演者をさせてもらいました。
久しぶりに、パワーポイントソフトを起動し、スライド作りに励みました。
製薬会社のMR(医薬情報担当者)ですので、全くの素人ではなく、
かといって、学会での発表相手ある整形外科医師でもないので、内容や構成は悩みました。
シオノギ製薬が扱っている慢性疼痛治療薬は、現在整形外科領域で活躍しています。
そのため、変形性膝関節症の治療を中心に、疼痛管理の考え方の変遷、術後鎮痛の方法を話すことにしました。
なかなかMRさん達が関わることがない、手術室内での出来事等を交えながら一時間講演しました。
ひと昔前の「大きな手術後だから痛いのは仕方がない。我慢しなさい」という考えから、
「術後に患者を痛みで苦しませるのは罪である」と、この20年ぐらいで大きく変わりました。
当院では、両膝同時の人工関節手術(もし術後疼痛ランキングがあればトップクラスの手術)でも
痛み0を目指して術後疼痛管理を行っています。
医師でも、一般の人でもない相手の講演という、なかなかない経験でした。
3週連続の両人工膝関節全置換術(TKA)
両膝とも悪い方の人工膝関節置換術は、体力的に問題なければ
同時手術を勧めています。
7月の土曜日午後は、3週連続の両膝同時TKA(全置換術)でした。
一週目の60代女性です。
高度な変形があります。軟骨が消失しO脚となっています。年齢、変形の程度等からTKAを選択しました。
術後のX線です。形が綺麗になっています。
術後の経過は良好で4週で退院されました。
2週目も、60代女性です。
同様に高度な変形があります。
術後のXPは、同じく綺麗な形となりました。
3週目は70台女性です。
私がクリニックに戻ってきた8年前の時点で、既に「超」がつく高度な変形でした。
右膝は(向かって左)、脛骨(すねの骨)の内側が変形しすぎて骨が一部分離しています。
歩行時に高度なスラスト(体重がかかった瞬間膝が外にぶれる)があります。
当時、手術について説明しましたが、平気だからと希望されませんでした。
人工関節の手術面談のときに必ず私が話すことがあります。
「自分自身が、もう手術するしかないと思ったときが一番のタイミングです。」
X線では「よく歩けるな・・」と思うほどの変形でも、本人が平気ならそれで良いと思います。
痛いから手術を受けるのであって、変形しているから手術をするわけではありません。
しかし、選択肢として手術があることを知らないと選ぶことができませんので、
これほどの変形があれば、必ず手術の説明をします。
その後外来で温熱療法、湿布等を処方する日々が8年間続きました。
最近は、会うたびに痛みの訴えが強くなっていましたが、遂に覚悟を決められました。
脛骨内側の骨が欠けており、安定性を高めるために、脛骨にロッド付の
人工関節を挿入しました。
両足とも形が良くなったことがわかると思います。
もちろん、歩容も各段に良くなっています。
3週連続両TKA後、2週連続で両UKA(部分置換)が続きました。
両膝同時は、片膝ずつより、術後2週ぐらいまでは大変です。
しかし、退院時に「片方ずつやっておけば良かった」と言われた方は
ほとんど(覚えている限り一人も)いません。
欠点は、私が少々疲れるぐらいです。
高度な変形性股関節症に対するALSTHA
60代男性のALS-THA(前側方進入-人工股関節全置換術)を行いました。
15年前に骨頭壊死症という難病になり、痛みに耐えながら仕事を続けられていました。
X線検査では、高度な変形となっており、骨頭が変形した骨盤の骨に包まれています。
当然股関節はほとんど動きません。
ALSTHAは、どんなに高度な変形でも10cm程度の皮膚切開で筋肉の狭い間から入っていきます。
皮膚切開を広げて、筋肉を一部切り離すことにより広い視野が得られる通常の後方進入と大きく違います。
これほどの高度変形の股関節の場合、ALSで関節に到達しても、「ここはどこ?」状態から始まります。
約15年と年期の入った壮年男性の堅く変形した骨と格闘すること2時間半。
余計な骨を除去し、綺麗に設置することができました。
後方進入とくらべて手間はかかりますが、極めて脱臼しにくい安心感はかけがえのないものです。
30代男性 有痛性外脛骨手術
足の内くるぶしの斜め下前方あたりに張り出した場所があります。
この部分は後脛骨筋という筋肉の付着部であるため、強い力がかかります。
この部分に痛みがあり難治性の場合、過剰な骨である外脛骨がある場合があります。
外脛骨自体に害はなく、15%ほどの人にみられます。
しかし捻挫やスポーツで不安定性が生じ、痛みが出ることがあります。
小児の場合、成長とともに治癒することがほとんどですが、
成人の難治性疼痛に対しては手術が選択されることがあります。
手術は外脛骨の骨片摘出です。
今回紹介するのは、30代男性です。
難治性の疼痛に対し手術を希望されました。
赤で囲まれた部分が外脛骨です。
手術時間は付着する靭帯との関係で変わりますが、30~40分程度で終了します。
右足の手術後です。
赤で囲まれていた部分の外脛骨がなくなっています。
さらに舟状骨の張り出しも少し削っています。
有痛性外脛骨障害の方は、かなり多いのですが、
保存治療(湿布、物理療法、理学療法)で軽快することが多く、手術を受ける方は少数です。
手術は低侵襲な割りに除痛の確実性は高いので、なかなか治らない方にはお勧めです。
しかし靭帯付着部であるため、全力で走るようなスポーツ復帰には3~4カ月必要です。
HP「ひざの痛みと治療方法」に登録されました
「ひざの痛みと治療方法」というホームページに https://hiza-itami.jp/
骨切り術(HTO)の相談と手術を受けられる施設として登録されました。
宮崎県では2施設で、宮崎市内では当院のみとなっています。
登録には、高い技術と一定の手術実績が必要となり、
先日登録完了の連絡があり、大変光栄なことだと思っています。
骨切り術以外の情報も詳しく載っているので、膝の痛みで悩んでいる方には、
有意義なホームページです。
2019年手術実績
2019/1/1~12/31までの手術実績をまとめました。
全手術件数 423件
全身麻酔手術 321件
局所麻酔手術 102件
全身麻酔手術内容
人工関節置換術(膝・股) 109件
膝関節鏡手術 112件
高位脛骨骨切り術(O脚矯正) 18件
骨折手術 41件
その他 41件
局所麻酔手術内容
腱鞘切開 63件
手根管開放術 12件
軟部腫瘍摘出術 11件
その他 18件
両膝、両手同時手術、複数部位同時手術(足と手の骨折など)は2件で計算しています。
保険点数上は2件でも、同一術野の手術(手首の橈骨・尺骨骨折同時手術、腱鞘切開同側2本以上、膝関節鏡と高位脛骨骨切り術同時手術など)は1件で計算しています。例えば上の一覧では膝関節鏡手術は112件としていますが、高位脛骨骨切り術(18件)でも関節鏡での処置を同時に行うので、実際の関節鏡手術件数は112+18=130件となります。しかし、これを2件にわけるとわかりにくくなるのと、実態からかけ離れていくので、この場合高位脛骨骨切り術を(主)としてカウント、関節鏡は(従)としてノーカウントにしています。
手術部位では、膝(人工膝関節全置換・単顆置換・膝関節鏡・高位脛骨骨切り術・骨切り後の抜釘など)が
225件と最多でした。
前十字靭帯再建+高位脛骨骨切り同時手術
高位脛骨骨切り術(HTO)は、若年で活動性が高い変形性膝関節症に主に行われる手術です。
しかし、膝前十字靭帯(ACL)という前後・回旋制動の役割を果たす靭帯が機能していることが絶対条件となります。
ACLは、スポーツ選手(バレー、バスケットボール、サッカー等)がよく切ってしまう靭帯です。
ACL断裂を放置すると、将来ほぼ確実に変形性膝関節症になるので、
現在では、40~60歳でも再建が当たり前となっています。
しかし、10~20年前より以前は、スポーツをしない、主婦、中高年だからと
保存治療(手術をせずにリハビリや装具)も間違いではないとされていました。
今回紹介するのは50代の女性で、中学生のころにACL断裂が生じています。
その後約40年経過して、高度な変形性膝関節症となりました。
右膝内側の軟骨が消失して、関節面が不正となり、さらにO脚に変形しています。
通常であれば人工関節の適応ですが、活動性が高く、HTOを希望されました。
しかしACLが断裂しているため、HTOと同時にACL再建も行う必要があります。
関節鏡画像です。
右膝内側の軟骨が消失しています(上)。
対してHTOで体重がシフトされる外側の軟骨は全く正常です(中)。
ACLは完全に消失しています(下)。
(下)画面の左上から右下にかけてあるべきACLは遺残組織のみとなっています。
まずはACLを再建します。
V0020動画です。
この後にHTOを行います。
HTOのスクリューと再建靭帯の走行が重ならないように、
微調整が必要となり難易度の高い手術となります。
並べてみると、膝の形が良くなっていることがわかります。
両側同時 高位脛骨骨切り術2例
2019年11月は両側同時の高位脛骨骨切り術が2例ありました。
高位脛骨骨切り術とは、変形性膝関節症のうち内側の変形が強い(=O脚)の患者さんで、活動性が高い方に行う手術です。
変形が少ない膝の外側に、荷重部を移動(X脚にシフト)させることにより、痛みをとることができます。
変形性膝関節症は、両側同じように変形していく場合が多いので、両側同時手術の適応は意外と多いです。
一例目は40代女性です。
高度なO脚です。内側の関節裂隙(軟骨があるべきすき間)が消失しています。
60歳以上であれば、人工膝関節置換術を選んでもよい症例です。
関節鏡で膝の中を確認すると、膝の内側の軟骨が消失しているのに対し、
膝の外側の軟骨は十分に残っていました。
両足同時に矯正しています。術後は4週で退院し、経過は良好です。
次は50代女性です。
同じように内側の軟骨がすっかり消失しています。
年齢的には人工関節でも対応可能ですが、まだまだお仕事を現役で
頑張るために両側同時の骨切り術を希望されました。
術後の経過は良好で、おなじく4週で退院となりました。
両側同時手術の良い点は、片側ずつした場合に比べて、一回の全身麻酔ですむこと、入院期間が半分になることです。
欠点としては、術後1~2週は、片側ずつした方にくらべて移動が大変です。
終わってみれば、皆さん両側同時にやって良かったと言われます。
11月はこの2例以外に、両側同時TKA(人工膝関節全置換術)、両側同時UKA(人工膝関節単顆置換術)
が一例ずつありましたが、3~4週で退院しています。
40代女性 股関節高位脱臼
高位脱臼とは、乳児~幼児期から股関節が脱臼した状態です。
人間は適応力がありますので、なんとか歩けるのですが、変形が進むと歩行困難となります。
先日40代の女性の高位脱臼を伴う右変形性股関節症に対し、人工関節置換術を行いました。
右股関節の位置が左と違います。
40年以上この状態で歩いていたわけで、股関節の上の骨盤に新しい関節ができています。
この場合、本来の股関節の位置に戻すための手術操作、骨移植、靭帯調整が必要になり
難易度の高い手術になります。
術後の画像です。
足の長さがそろい、骨盤の傾きも改善しています。
痛みが取れ、驚くほど歩く姿勢がよくなりました。
外反母趾手術
外反母趾は、中高年以降の女性でかなりの有病率です。
しかし、膝や股関節ほど直接歩行に影響しないため、手術するケースは少ないです。
ほとんどの方が、薬局やインターネットで買えるような簡易装具で治療し、実際それで問題はありません。
母趾の付け根が腫れ上がって痛みが続いたり、足の裏に大きなタコ(ベンチといいます)ができて
歩行時に疼痛が生じ、保存治療で改善がないケースが手術になります。
見た目もよくなりますが、見た目を治すことが目的ではなく、足のアーチを調整し痛みをとる手術です。
40代男性の左外反母趾手術の症例を紹介します。
X線で左足の親指が外側を向いています。手術は全身麻酔で1時間程度の手術となります。
術後のX線写真です。中足骨という足の甲のあたりの骨を矯正します。
外反母趾手術は、以前はスクリューやピンを1~2本で固定する手術が主流で、初期の固定力が弱いことが問題でした。
当院では、強固な固定が得られるロッキングプレートを使って矯正位を保持します。
手術翌日より踵(かかと)を使って歩行可能です。入院期間の目安は3日~10日です。
術後数年経過して母指が外反してくることがありますが、骨格を矯正しているので、
見た目が少し戻る程度で問題はありません。