岡本整形外科 院長診療ブログ

当院での手術症例、手術実績、医院近況等をご紹介します。

半月板縫合術の2例

膝半月板は、大腿骨と脛骨の間にあるクッションであり、膝の安定性においても重要な役割を果たします。

若年者では、外傷により損傷を起こしますが、中高年以降では年齢による変性(加齢による劣化・柔軟性の低下)の結果損傷を起こします。

半月板は血流が乏しい組織であり、治癒力が極めて弱いため、断裂が生じた場合、関節鏡による部分切除が一般的に行われます。

しかし、若年者では、切除による半月板の機能低下により、将来変形性膝関節症となるリスクが高いため、可能であれば関節鏡での縫合を行います。

 

縫合をおこなった2症例を紹介します。

1例目は30代の女性です。

断裂型としては、縦断裂となります。

このタイプは、血流がある半月板外縁の損傷であるため高い治癒率を期待できます。

 

処置前の画像

縦断裂によって、半月板は前方に引き出され、激しい疼痛が生じます。

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術後の画像動画

縫合糸3本による固定

本来の位置にしっかり縫合されています。

 

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もう2例目は30代の男性です、

断裂型としては、FLAP型となります。

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断裂部分に、血流がほぼない半月板内縁が一部かかっているため、治癒率が下がります。

しかし、切除した場合は半月板機能の大部分を失ってしまうため、若さに期待して縫合を行いました。

 

処置前の画像

FLAP状の断裂。縫合に向いた断裂型ではありませんが、半月板そのものの変性は少ない状態です。

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術後の画像

強固に縫合できています。

しかし装具による固定期間は、やや長めとなります。

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半月板縫合は、縫合技術の研究や進歩により、以前に比べて積極的に行われるようになっています。

しかし、すでに変形性膝関節症が進んでいる高齢者、肥満、O脚バランスであれば、

縫合単独による治癒は厳しくなります。

それでもなお、縫合に臨む場合は、以前のブログでも紹介している高位脛骨骨切り術の併用が必須となります。

 

半月板縫合は再断裂(縫合した部分が裂けること)が、無視できない確率で生じます。

また長期間の免荷(体重をかけないこと)と装具の着用が必要です。

入院期間は3〜4週となります。

そして再断裂した場合は、再手術が必要となります。

しかし、半月板機能の大部分を温存することができます。

 

対して半月板部分切除は、再断裂は起きません。

翌日から通常の歩行が可能で、入院期間は4〜8日程度です。

しかし、将来的に変形性膝関節症が悪化し、人工関節や高位脛骨骨切り術が必要となる可能性が高くなります。

 

症例ごとに変わりますが、大まかにわけるのであれば、

10〜30代 縫合単独

40〜50代 縫合+高位脛骨骨切り術

60代〜 部分切除 (再断裂リスクが高くなる年齢だが、理解があれば縫合+高位脛骨骨切り術)

と考えてください。

 

40〜50代でも縫合単独はありえますが、

この年代は、半月板が切れてしまうそれなりの理由(変形性膝関節症、O脚バランス、肥満など)があることが多いです。

再断裂してしまえば、数ヶ月の治療が振り出しにもどるどころか、より半月板の状態が悪くなります。

中高年以降は、断裂に対して、一旦は部分切除にとどめておいて、将来変形性膝関節症が悪化することがあったら、

追加手術を考えることも選択枝となります。

なぜなら、半月板の部分切除を行なったからといって、変形が悪化すると決まっているわけではないからです。

 

実際には、X線写真、MRI検査、さらに体格、職業、スポーツ、過去の外傷歴、患者さんの希望など、

さまざまな様子を考慮して決定します。

また縫合を予定して手術を開始しても、想定以上に半月板の変性が激しい場合や断裂型によっては

縫合を断念して切除に切り替えることがあります。